回りながら進む

数学/語学/プログラミングなどに興味があります

数の構成❶ ペアノの公理を満たす集合の存在

こんばんは、simuloです。

simulo (@simulo_) / Twitter

自分はここしばらく独学でペアノの公理について勉強しています。参考にしている文献(PDF)はこちらです。

https://mathematics-pdf.com/pdf/construction_of_numbers.pdf

もともと数学に対する素養もなく、独学なので間違いも多いかと思われますが、間違いを見つけられましたらコメントにて教えていただけると幸いです。 集合論もあいまいにしか勉強してないので、集合論における間違いが一番心配です。

また、今回の記事は上の文献に記述がなかった部分なので、自分で証明をしています。なおのこと心配ですね。

今回はZFC公理系からペアノの公理を満たす集合の存在を示します。必要となる公理は以下の二つです:

1.無限公理: \exists A(\emptyset \in A \land \forall x \in A ( x \cup \{ x \} \in A ) )

空集合を要素にもち、xを要素にもつならx∪{x}を要素に持つ集合Aが存在する。

無限公理 - Wikipedia

2.正則性公理:  \forall A (A \neq \emptyset \Rightarrow \exists x \in A \forall t  \in A(t \notin x))

空でない集合は必ず自分自身と交わらない要素を持つ。

正則性公理 - Wikipedia

また、これからの話題の中心となるであろうペアノの公理についてまとめます。

集合Nペアノの公理を満たすとは、集合Nが以下の条件を満たすことを指す。

  1.  0 \in N
  2. 写像 \sigma: N \mapsto Nが存在する。
  3. 写像 \sigma単射である。 \sigma (x_1)=\sigma(x_2) \Rightarrow x_1=x_2
  4. 写像\sigma(x) x\in Nがなす全体の集合を\sigma(N)として、0\notin\sigma(N)
  5. 集合SS\subset Nとして、(0 \in S \land x \in S \Rightarrow \sigma(x) \in S) \Rightarrow S=N

僕らが慣れ親しんでいる自然数という集合はこのペアノの公理を満たすとされています。というより、このような公理を満たす集合として自然数の存在を示していくわけです。自分も読んでいて驚いたのですが、これだけの公理(定義?)から足し算と同じ性質を持つ写像、掛け算と同じ性質を持つ写像があっという間に構成されていくのです。さて、ペアノの公理を満たす集合の存在の証明をしていきます。

証明

命題

ペアノの公理を満たすような集合Nが存在する。

まず次の補題が正則性公理から導かれることを示す。

補題1:  \lnot (\forall x_1 (x_1 \ni x_2 \ni x_3 ...))

任意のx_1に対してx_1 \ni x_2 \ni x_3......と続く無限降下列が存在しない。

証明: 無限降下列が存在したとし、ある一つの無限降下列x_1 \ni x_2 \ni x_3......を用意し、それらすべてを含む集合Xを考える。 このとき任意の要素x_nに対し、A \cup x_n = x_{n+1}となり、正則性公理:  \forall A (A \neq \emptyset \Rightarrow \exists x \in A \forall t  \in A(t \notin x))に矛盾。 よって無限降下列は存在しない。Q.E.D.

補題2: 無限公理における集合Aペアノの公理の条件1.~4.を満たす。また0=\emptysetとする。

  1. 無限公理における集合Aの条件より、 0=\emptyset \in A
  2. x \in Aに対してx \cup \{ x \}を対応させる写像\sigmaとすれば、無限公理の集合の構成の仕方より写像\sigma: X \mapsto Xが存在する.。
  3. x_1 \neq x_2 \land \sigma(x_1) = \sigma(x_2)、すなわちx_1 \neq x_2 \land x_1 \cup \{ x_1 \} = x_2 \cup \{ x_2 \}となるx_1,x_2 \in Aの存在を仮定する。すると、x_1 \neq x_2より、 \{ x_1 \} \neq \{ x_2 \}なので、 \{ x_1 \} \subset x_2である必要がある。同様に、\{ x_2 \} \subset x_1である。つまり、 \{ x_1 \} \subset x_2 \in \{ x_2 \} \subset x_1 \in \{ x_1 \} x_1 \in x_2 \in x_1となり、補題1に反する。
  4.  0=\emptyset \in \sigma(N)とすると、ある要素 ρ \in Aによって\emptyset=ρ \cup \{ ρ \}と表せることになり、矛盾。

Q.E.D.

を要素に持つとき、x\cup \{ x \}を要素に持つような集合を帰納的集合とよぶ。無限公理は、空集合を要素に持つ帰納的集合の存在を示している。つまり、0を要素に持つ帰納的集合は存在し、補題2でそのような集合はペアノの公理の条件1. ~4.を満たすことを確認した。

0=\emptysetを要素に持つ帰納的集合をAとし、そのようなA全体の集合を\mathfrak{A}とする。また、\bigcap_{\forall A \in \mathfrak{A}}{A}=Bとする。補題2は \forall A \in \mathfrak{A}に対し成り立つのであった。このとき、Bペアノの公理を満たす集合であることを示す。

  1.  \forall A \in \mathfrak{A}について、 \emptyset \in Aなので、 \emptyset \in B
  2.  \forall A \in \mathfrak{A}について、 x \in A \Rightarrow x \cup \{ x \} \in Aなので、 \tau : B \mapsto B \tau(x) =  x \cup \{ x \}と取ることが出来る。
  3. ここで、1.と2.より、集合Bは無限公理における集合Aの一つであることが分かる。補題2より、また、上で取った写像\tauの取り方が補題2の2.の写像\sigmaと一致しているので、写像\tau単射である。
  4. 3.と同様に、 B \in \mathfrak{A}であることが確かめられるので、 0 \notin \tau(B)
  5. 集合Sはその取り方からS \in \mathfrak{A}である。ここで、集合Bはその取り方より、 \forall A \in \mathfrak{A}(B \subset A) となるので、B \subset S。これと、S \subset Bより、 S=N

よって、集合Bペアノの公理をみたす。 Q.E.D.

つまりこれでペアノの公理を満たす集合が存在する、ということが示されたわけです。あとは少しこのペアノの公理を満たす集合に関する性質を証明すれば安心して自然数を扱えますね。これからも数の構成に関する記事を何個か書いていこうと思います。

ご拝読いただきありがとうございました。